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東京家庭裁判所 昭和38年(少)823号 決定

少年 W子(昭一八・七・二六生)

主文

この事件を横浜家庭裁判所に移送する。

理由

本件戻収容申請の理由は別紙記載のとおりである。すなわち、少年は、昭和三七年六月一八日榛名女子学園を仮退院後、横浜保護観察所の保護観察下に入り、主任官稲田昌樹保護観察官のもとで指導監督と補導援護が行われてきたところ、その後、同年一〇月一八日横浜家庭裁判所に於て売春防止法違反保護事件で審判の上試験観察補導委託の決定を受け、担当渡辺県調査官が鋭意観察補導を試みた後、昭和三八年三月一日不処分決定を受けるに至つたものである。そこで、本件申請を認容すべきかどうかについて考えてみると、少年及保護者実母は、少年を少年院に戻して収容することについては強く反対しており、一方、少年につき収容矯正教育を実施した榛名女子学園長も、本少年は少年院における矯正教育の対象者ではないと思われる旨回答しておる等の諸事情に照らすと、今直ちに、本件申請を認容し、少年を少年院に戻して収容することは、当を得たものではないと考えられるが、他面、申請者側によつて明らかにされた遵守事項違反等の事実に照らせば、本件申請を当裁判所において今直ちに棄却することもまた当を得たものではないと考えられる。要するに、本件は少年と少年の家庭等の実情を十分に把握している横浜保護観察所に対応し、しかも、仮退院後の少年につきすでに補導の実を挙げている横浜家庭裁判所において、同庁担当調査官と主任保護観察官とが緊密に協力しつつ、しばらく動向を観察した後に、然るべき決定を下すべき事案であると判断する。よつて、本件は、保護の適正を期するため、少年及保護者の住居地を管轄する横浜家庭裁判所に移送することが、特に必要であると認め、少年法第五条第二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 市村光一)

別紙

理由

本人は、当委員会第一部の決定により昭和三七年六月一八日榛名女子学園を仮退院し表記住居母の許へ帰住して以来、昭和三八年七月二五日を保護観察の期間終了日とし横浜保護観察所の保護観察下に入つたが、昭和三八年五月一五日同保護観察所へ引致され、同日、当委員会第一部において戻し収容申請のための審理を開始する旨の決定を受け、同日以降、同月二四日を留置期限として横浜少年鑑別所に留置中のものである。

横浜保護観察所においては、本人が魯鈍級の低格者であり、かつ不純異性交友が非行化の誘因をなしている点等を考慮して、担当保護司との接触を特に緊密にし不良交友を避けさせる一方、適職を斡旋して勤労を通じ更生をとげさせるよう計り保護観察を行なつてきた。

然るに、本人には仮退院の当初から更生の意欲極めて稀薄であり、仮退院後前記引致されるまでの保護観察期間中において、

一、担当保護司が職に就くよう世話したのに、その職についてまじめに働こうとせず仮退院後間もない昭和三七年六月下旬頃表記母方から家出し東京都新宿方面に赴き以来家出を反覆してもつて一定の住居に居住せず

二、前記一記載の家出の後は、東京都内新宿、池袋等を転々と住居を移転し、時々帰宅はするが、母方におちつかず、その間、同年七月下旬頃○○組のヤクザMと知合い同人と新宿区内で同棲をしたのをはじめとし、同人とわかれた後つぎつぎと安易に異性関係を結び、自動車運転手Y、同J、同K、同H等と時期を異にして東京都内において同棲生活をなすもそのいずれも永続きせずもつて不純異性交友と目される生活に終始し

三、前記家出期間中の昭和三七年一一月三日頃、小遣銭に窮し母方に立ち戻り、母の財布の中から現金九、〇〇〇円を盗み出したものである。

叙上の事実は、昭和三八年五月一八日付横浜保護観察所長からの戻し収容申出書及び同書添付の関係書類により明らかであり、さきに仮退院に際して本人が誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項の第一号乃至第四号の各号及び同法第三一条第三項にもとづき前記委員会第一部が定めた遵守事項の

(三) 二〇〇粁以上ある地に旅行し、または三日を越えて住居をあけるときは、前もつて受持者の許可を受けること。

(四) 母のことをよく考え、義父にもつかえて働くこと。

(五) 保護司の言いつけをよく守ること。

のそれぞれに違反しているものであり、また、この間再度に亘り横浜家庭裁判所において不処分決定を受けているとはいえ売春防止法違反の罪により二回に及び検挙された事実があるにおいては、到底、本人に更生の意欲を認めることは困難であり、その反社会性、虞犯性は極めて濃厚なものと思料される。

一方、本人の家庭には保護能力をほとんど期待することができず、又本年五月初旬から引致直前まで同棲生活を続けていた自動車運転手Tとの関係も将来正式な結婚生活に入ることを前提としたものとは認め難く、その永続は期待できないものと思われる現在、このまま放置するとき本人は再び家出をくりかえし将来罪を犯す虞は十分これを認めることができる。

よつてこの際本人を少年院に戻して収容し規律正しい団体生活に馴致させることによりその反社会性を除去しその間家庭の調整を計り或は社会資源の開拓等に努め次の機会においてその更生を期待することを適当と認めこの申請をする。

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